発酵性食物繊維とは?
腸内環境を改善する腸活に欠かせない「食物繊維」には、さまざまな種類があります。
とくに今注目を集めているのが「発酵性食物繊維」です。
発酵性食物繊維とは、どのようなものなのか、腸内環境改善に役立つ働きについて解説します。
発酵性食物繊維とは?
発酵性食物繊維とは、腸内細菌によって発酵しやすい食物繊維のこと。
腸内細菌のエサになり、エネルギーになることを“発酵”と呼ぶことから、そう呼ばれています。1)
腸内には、からだによい働きをする有用菌(通称、善玉菌)、悪い働きをする有害菌(通称、悪玉菌)、どちらにも属さない日和見菌の3つに分類される、多くの腸内細菌が生息しています。
腸内環境を改善するには、善玉菌を増やして、悪玉菌を増えにくくすることが大切です。
そこで善玉菌の増殖をサポートする発酵性食物繊維が活躍してくれるのです。2)
そんな発酵性食物繊維には、多くの水溶性食物繊維と、難消化性でん粉(レジスタントスターチ)があり、それぞれ腸内で発酵する場所や時間、つまり腸内細菌への作用の仕方が異なります。
そのため、よい腸内環境を保つためには、いろいろな種類の発酵性食物繊維をとることが大切です。3)4)
食物繊維の種類
食物繊維はとても種類が多く、分類の仕方もさまざまあります。
よく知られている分類としては、水に溶けない「不溶性食物繊維」と、水に溶ける「水溶性食物繊維」。
水溶性食物繊維は、さらに「ネバネバ系」と「サラサラ系」に分けられます。
ほかにも、どんな食品に含まれているかによって、「植物性食品由来」と「動物性食品由来」に分けられることも。
最新の日本食品標準成分表2020年版(八訂)では、糖の結合の程度によって、難消化性オリゴ糖などの「低分子水溶性食物繊維」と従来の「高分子水溶性食物繊維」に分けて表示されています。
そんな分類のひとつに、善玉菌のエサになりやすい「発酵性食物繊維」というものもあるのです。3)4)
発酵性食物繊維と善玉菌の関係性
私たちの腸内には多種多様な腸内細菌が生息しています。
腸内細菌は、善玉菌、悪玉菌、日和見菌の3つに分類されており、日々バランスをとりながら腸内環境を保っています。
そして、よりよい腸内環境を整えるためには、からだによい働きをする善玉菌を増やすことが重要です。
この善玉菌のエサになるのが、発酵性食物繊維。
積極的にとることで善玉菌のエサとなり、善玉菌は短鎖脂肪酸という私たちの健康にいろいろな効果をもたらす成分を生み出すことに関係していると知られています。1)
関連コラム:善玉菌とは?
発酵性食物繊維の種類
食品由来の水溶性食物繊維の多くは発酵性のある食物繊維だと知られていますが、いくつか種類があります。
発酵性食物繊維は繊維の長さによって、善玉菌のエサになり分解される速度が異なるため、およそ3つのグループに分類されます。
長さが短い水溶性食物繊維としてはイヌリンや難消化性オリゴ糖、長さが長い水溶性食物繊維としてはβ-グルカンやペクチン、不溶性食物繊維として存在するものにはアラビノキシランや難消化性でん粉(レジスタントスターチ)があります。
いくつも種類のある発酵性食物繊維ですが、その種類によって腸内で発酵する場所や、食べてから発酵するまでの時間が異なるという特徴も。
発酵する場所は、長さが短いイヌリンや難消化性オリゴ糖は腸の入り口付近、長さが長いβ-グルカンやペクチンは腸の中央付近、さらに不溶性食物繊維のアラビノキシランや難消化性でん粉(レジスタントスターチ)は腸の最奥まで届いて発酵すると知られています。
単に発酵性食物繊維といってもこのように特徴が異なり、善玉菌への作用の仕方も種類によって変わるのです。4)
発酵食品と発酵性食物繊維の違い
「腸内環境」や「発酵」と聞くと、「発酵食品」を思い浮かべる方も多いのではないでしょうか。
発酵食品とは食べ物に含まれる栄養素を乳酸菌や酵母、麹菌、納豆菌などの微生物が分解し、香り、酸味、旨味など新しい栄養成分が付与された食品のこと。
ヨーグルトやキムチなどが有名で、それらの中には善玉菌として有名な乳酸菌やビフィズス菌が含まれていることは皆さんご存じだと思います。
一方、発酵性食物繊維とは、私たちの大腸の中にいる善玉菌のエサになる食物繊維のことです。
「発酵性食物繊維」は善玉菌のエサとなる成分なので、私たちの健康のために働く善玉菌を元気にするために欠かせない栄養素なのです。
発酵性食物繊維の効果
前述のとおり、発酵性食物繊維は善玉菌のエサとなり、短鎖脂肪酸の産生を介して私たちの健康をサポートしてくれます。
善玉菌が作り出す短鎖脂肪酸は腸内環境を整えるだけでなく、吸収されて血液中へ移行し、全身を巡ってさまざまな働きをすることが知られています。
例えば、腸内を弱酸性にすることで悪玉菌の増殖を抑える、腸管のバリア機能を高める、腸を刺激してぜん動運動を促進するなど、短鎖脂肪酸には腸を元気にするさまざまな効果が期待できます。
また、脂肪の蓄積を抑える、血糖値の上昇を抑えるといった肥満予防効果を期待できる可能性も報告されています。
このように、発酵性食物繊維の摂取による多くの健康効果が近年の研究報告で明らかになってきているのです。5)
関連コラム:短鎖脂肪酸とは?
発酵性食物繊維の摂取方法
発酵性食物繊維を食事にとり入れるには、どんな方法が効果的なのでしょうか。
発酵性食物繊維は、種類によって大腸への届き方や発酵の仕方が変わるといわれています。その特徴を押さえながら、効果的な方法で善玉菌を元気にしましょう。
- ポイント1:いろいろな種類の発酵性食物繊維をとる
- ポイント2:毎日の主食に発酵性食物繊維を取り入れる
- ポイント3:発酵食品と一緒にとる
詳しい摂取方法については、以下ページで解説していますので、ぜひお読みください。
関連コラム:発酵性食物繊維の摂取方法は?
毎日の健康習慣に“善玉菌と一緒に作る健康”を取り入れていくためにも、食事に発酵性食物繊維をプラスしていきましょう。
まとめ
発酵性食物繊維は、腸内の善玉菌のエサとなることで健康にいい効果を発揮するといわれる短鎖脂肪酸に生まれ変わる栄養素です。
腸活に欠かせない栄養素のひとつとして、ぜひ食生活に取り入れてみてください。
そんな発酵性食物繊維には種類がいくつかあり、種類によって善玉菌への作用の仕方も変わってきます。
より効果的に善玉菌にエサを届けるために、いろいろな種類の発酵性食物繊維を食生活に取り入れていきたいですね。
昭和33年10月 東京生まれ
現職:大妻女子大学家政学部食物学科 教授 農学博士
研究:穀物中の食物繊維の機能性研究がテーマ。
経歴:1984年 千葉大学大学院園芸学研究科修士課程修了、1984年 雪印乳業(株)入社、2003年 大妻女子大学家政学部助教授、2007年 大妻女子大学家政学部教授、現在に至る。
学会:日本食物繊学会理事長,日本栄養・食糧学会評議員,日本栄養改善学会評議員
受賞:2007年 日本栄養改善学会・学会賞受賞、2010年 日本食物繊維学会・学会賞受賞、2022年 日本栄養・食糧学会・学会賞受賞
著書:食物繊維(第一出版)、毒出しごはん(河出書房)
執筆に利用した学術論文、総説・解説、書籍等の一覧
1) 一般社団法人日本食物繊維学会 ルミナコイド素材エネルギー評価検討委員会 ルミナコイド素材のエネルギー評価の考え方とメチルセルロース,イヌリン,還元難消化性デキストリンならびに高架橋澱粉のエネルギー評価結果 平成14年
2) 腸内細菌と健康 - e-ヘルスネット - 厚生労働省
3) Jane Higdon et al. Fiber, Linus Pauling Institute Oregon State University 2004
4) Seiichiro Aoe et al. Effects of BARLEYmax and high-β-glucan barley line on short-chain fatty acids production and microbiota from the cecum to the distal colon in rats, plos one, 2019
5)Hidenori Shimizu et al. Regulation of host energy metabolism by gut microbiota-derived short-chain fatty acids, Glycative Stress Research 2019; 6 (3): 181-191