短鎖脂肪酸とは?
最近注目されている「短鎖脂肪酸」をご存じですか?
短鎖脂肪酸は私たちの大腸で作られ、からだの各部位で重要な働きをしています。
健康のために知っておきたい短鎖脂肪酸について解説します。
- 短鎖脂肪酸とは?
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短鎖脂肪酸の種類と効果
- 酢酸
- 酪酸
- プロピオン酸
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短鎖脂肪酸の増やし方
- 発酵性食物繊維をとる
- まとめ
短鎖脂肪酸とは?
短鎖脂肪酸の「脂肪酸」とは、脂質を構成する要素のひとつです。
脂肪酸は炭素がいくつも連なった構造をしていて、炭素の数によって短鎖・中鎖・長鎖に分類されます。
このうち6個以下の炭素数を持つ脂肪酸の総称が「短鎖脂肪酸」です。1)
短鎖脂肪酸は、私たちの大腸に暮らす腸内細菌が、発酵性食物繊維をエサとして食べたときに作られる代謝物です。
短鎖脂肪酸には、腸内を弱酸性に傾けることで悪玉菌の過剰な増殖を抑える、腸の運動を活発にする働きが知られています。2)
短鎖脂肪酸の種類と効果
腸で作られる主な短鎖脂肪酸は「酢酸」、「酪酸」、「プロピオン酸」です。
人の健康と関係があると知られる短鎖脂肪酸にはどのような働きがあるのでしょうか。
酢酸
私たちのからだには、口から入ってきたウイルスや細菌などの外敵からからだを守るための免疫機能が備わっています。
異物が体内に入ると、IgA、IgG、IgE、IgM、IgDの5種類の免疫グロブリンが働きます。
中でもIgAは全体の60%以上が腸管に存在し、腸粘膜上にいるさまざまな病原体と結合して毒素を中和し、体内への侵入を防ぐといわれています。
大腸内で善玉菌が産生した酢酸はIgAの産生を促すという重要な役割も知られています。1)
酪酸
酪酸は大腸の表面にある上皮細胞に働きかけることで免疫力を高めたり、大腸の炎症を抑えたりする働きがあるといわれています。
この免疫力については、高い方が健康にはいいと思いがちですが、実はそうではなく、免疫が過剰に高まるとアレルギーや自己免疫疾患を発症するなどからだに害を与えてしまうことがあります。
免疫が健康に悪いように働いてしまうのは、免疫細胞のひとつであるT細胞が誤って自分のからだを攻撃してしまうから。
このT細胞の暴走を抑制するのが制御性T細胞です。
酪酸は制御性T細胞の比率を増やして免疫機能のバランスを調整する働きを担うのではないかと知られています。
あるマウスの研究では腸内細菌が産生した酪酸が制御性T細胞の増加に繋がり、人の免疫機能に関与しているのではないかと注目されています。3)
プロピオン酸
プロピオン酸には体内に吸収されると肝臓で代謝され、血液中のコレステロールを減らす働きがあるといわれています。
あるマウスの研究では、授乳期にプロピオン酸を含む飲料水を投与したマウスの母親から生まれた子どもは成長後にアレルギー性気道炎症が抑制されていたことから、プロピオン酸はアレルギー性疾患と関係のある成分として、今もなお研究されています。4)
短鎖脂肪酸の増やし方
短鎖脂肪酸は乳製品やお酢などにも含まれますが、食品から摂取した短鎖脂肪酸は小腸で吸収されてしまうため、善玉菌の暮らす大腸にはほとんど届きません。
大腸で短鎖脂肪酸を産生してくれる善玉菌を増やすことが大切で、そのためには善玉菌のエサとなる発酵性食物繊維を継続的にとることが必要です。
発酵性食物繊維をとる
発酵性食物繊維は善玉菌のエサになるので、善玉菌は増殖の過程で短鎖脂肪酸を産生することができるようになります。
発酵性食物繊維は色々な食品に含まれているので、積極的に食事に取り入れていきたいですね。
食物繊維と聞くと野菜のイメージがあるかもしれませんが、発酵性食物繊維をたくさん摂取するには野菜だけでは不十分です。
下記のような食材は発酵性食物繊維を多く含み、とくに、全粒粉や玄米、オーツ麦、大麦などは主食にもなるので、日々の食生活に取り入れやすい食材です。
【発酵性食物繊維を多く含む食材】
穀類(オーツ麦、玄米、大麦、全粒小麦)→「β-グルカン」「アラビノキシラン」
果物類(キウイ、みかん、プルーン) →「ペクチン」
豆類(大豆、あずき、ひよこ豆) →「難消化性オリゴ糖」
根菜類(ごぼう) →「イヌリン」
海草類 →「アルギン酸」
豆類、いも類(あずき、インゲン豆、サトイモ、サツマイモ)→「レジスタントスターチ」
関連コラムリンク:発酵性食物繊維の摂取方法は?
まとめ
腸内の善玉菌が作り出す短鎖脂肪酸には主に酢酸、酪酸、プロピオン酸の3つの種類があり、それぞれが私たちの健康によい働きをするという研究報告があります。
健康維持には短鎖脂肪酸を増やすことが重要になりますが、短鎖脂肪酸は口からとり入れても大腸まで届きにくいものです。
そこで毎日の食事から短鎖脂肪酸を作り出すことに繋がる善玉菌のエサ、つまり発酵性食物繊維を毎日摂取して、自分のおなかの中で短鎖脂肪酸を作り続ける生活が大切なのです。
京都府立医科大学大学院医学研究科
生体免疫栄養学講座 教授
<執筆に利用した学術論文、総説・解説、書籍等の一覧>
1)Hidenori Shimizu et al. Regulation of host energy metabolism by gut microbiota-derived short-chain fatty acids, Glycative Stress Research 2019; 6 (4): 181-191
2)腸内細菌と健康 - e-ヘルスネット - 厚生労働省
3) Furusawa, Y et al. Commensal microbe-derived butyrate induces colonic regulatory T cells. Nature 10.1038/nature12721. 2013.
4)Takashi Ito at al. The propionate-GPR41 axis in infancy protects from subsequent bronchial asthma onset, Gut Microbes Jan-Dec;15(1) 2023