酪酸菌とは?

現代の健康法として注目を集める「腸活」。
その中でも、健康にいい影響を与えるのではないかと研究報告されているのが善玉菌の一種である「酪酸菌」です。
本記事では、酪酸菌の特徴や腸活との関係性について解説します。

  1. 腸活に取り組むことの重要性
  2. 腸活の新しい主役?酪酸菌とは?
  3. 酪酸を作り出せるのは酪酸菌だけ
  4. 注目されている酪酸菌の健康への影響とは?
  5. 腸内で酪酸を増やす方法は?
  6. 腸内で酪酸を増やすには運動も有効?
  7. 健康長寿にも酪酸菌が効果的って本当?
  8. まとめ

腸活に取り組むことの重要性

近年、健康維持や病気予防のために「腸活」が注目を集めています。

腸活とは、腸内環境を整えるための活動を指し、これまでの研究により、免疫力をサポートすること1)2)や、気持ちなど精神安定をサポートすること3)、肌の調子をサポートすること4)などの可能性が示唆され、注目されています。

腸内には約40兆個の細菌が存在し、善玉菌と悪玉菌、日和見菌がバランスを保ちながら共存しています。このバランスが崩れると、うつ病、高血圧、心血管疾患、肥満、糖尿病、炎症性腸疾患、ガンなどの様々な病気の発症リスクを高めるといわれています。5)

現代の生活習慣は、運動不足や不規則な生活、偏った栄養バランスの食事になりがちですよね。食事からカラダにとりいれる栄養素は腸内細菌叢の組成や代謝活動にも影響を及ぼすことが知られていますので腸活の際には気をつけたいポイントです。6)

腸内細菌の中でも体にいい影響を与える菌は善玉菌と呼ばれており、善玉菌を増やすことは健康のために必要と言われているので意識的に善玉菌を増やす腸活に取組みたいですね。7)

腸活の新しい主役?酪酸菌とは?

善玉菌には色々な種類の細菌が含まれるのですが、中でも酪酸菌は、短鎖脂肪酸の一種である「酪酸」という成分を多く産生することが知られており、この「酪酸」が健康に与える効果については多くの研究報告がされています。

関連コラムリンク:善玉菌とは?

関連コラムリンク:短鎖脂肪酸とは?

酪酸を作り出せるのは酪酸菌だけ

酪酸を作ることができるのは主に酪酸菌で発酵性食物繊維をエサとして分解することで酪酸を生成すると知られています。

善玉菌の一種で、皆さんも一度は名前を聞いたことがある「ビフィズス菌」。
ビフィズス菌は酢酸や乳酸という成分を作ることは得意ですが酪酸を作ることは不得意です。
つまり、腸内で酪酸を上手く作りだすためには「酪酸菌」を増やす必要があるのです。

腸内で酪酸菌が作る酪酸が人の健康に与える影響については多くの研究者が注目しているのでその例を紹介していきます。

関連コラムリンク:善玉菌とは?

関連コラムリンク:短鎖脂肪酸とは?

注目されている酪酸菌の健康への影響とは?

酪酸菌の健康への影響は、さまざまな研究報告がなされています。

腸の炎症を軽減

酪酸は、免疫細胞に働きかけ腸の炎症を軽減する可能性があると研究報告されています。8)

アレルギー性疾患の発症リスクを軽減

乳児の研究では、腸内の酪酸産生が多い場合は、アトピーや喘息の発症リスクが軽減すること関連があると報告されています。9)

食物アレルギーの発症リスクを軽減

動物や人における研究において、腸内の酪酸などの短鎖脂肪酸量は、食物アレルギーの発症リスクが軽減する関係性があると報告されています。

関連コラムリンク:発酵性食物繊維と子どもの食物アレルギーとの関係性

悪玉菌の増殖を抑える

酪酸は「酸」なので腸内のpHを下げ悪玉菌の過剰増殖を抑制する可能性が研究報告されています。10)

腸のぜん動運動を刺激する

酪酸をはじめ、酢酸、プロピオン酸などの短鎖脂肪酸は腸のぜん動運動を刺激すると研究報告されています。11)

腸内で酪酸を増やす方法は?

ここまで紹介してきました「酪酸」は食事により、口から摂取する成分ではなく、主に人の大腸の中に生息している腸内細菌が作り出す成分です。

関連コラムリンク:短鎖脂肪酸とは

大腸の腸内細菌は、人が摂取した発酵性食物繊維をエサとして短鎖脂肪酸を作り出すことが研究で分かってきているので、発酵性食物繊維を積極的に食生活にとり入れることが腸内の酪酸を増やすために大切です。12)

発酵性食物繊維は、“食物繊維“という文字があるだけに野菜をイメージするかもしれませんが、キャベツやレタスなどの葉物野菜ではほとんど摂取できません。
意外にも、発酵性食物繊維は穀物に多く含まれていますので以下のコラムも参考に毎日の食事に活かしてみてください。

関連コラムリンク:発酵性食物繊維の摂取方法

腸内で酪酸を増やすには運動も有効?

腸内細菌の種類の豊かさ(=多様性)や量は食事だけではなく、運動とも関係があるのではないかと注目されています。適度な運動は気分転換になり、また、生活習慣病の予防になることは知っていると思いますが、腸内細菌とも関係があるとは驚きですよね。

ある研究では、運動量の少ない人よりも運動量が多い人の方が腸内細菌の多様性が高いことが報告されています。13)

また、別の研究では、運動量の多い人の方が酪酸菌の量が多い傾向があると報告されているので、適度な運動を続けることは、腸内細菌の多様性に影響し、酪酸菌の増加にもアプローチできる可能性があります。14)

日常生活でも、ウォーキングや、階段を上るなどの運動を“ただの運動不足解消のため”ではなく“腸の中の酪酸菌のため”と考えて、続けてみてはいかがでしょうか。

健康長寿にも酪酸菌が効果的って本当?

腸内細菌は、人が食事から取り入れる食事の影響を受けて、多様性や量が変わると知られています。6)

腸内細菌は、短鎖脂肪酸以外にも様々な代謝物を作り、肝臓や内分泌系にも影響を与えることが知られています。

さらには、認知機能や情緒などの精神面にも影響することが知られているため、腸内細菌をケアすることは、心身の健康のためにとても大切であると注目されているのです。15)

日本人を対象としたある研究によると、長寿者が多いと知られる京都府京丹後市の65歳以上の人は腸内細菌の中でも酪酸菌の存在が特に多い傾向があることが分かっており、この酪酸菌の存在こそが健康に生きるための鍵ではないかと考えられているのです。16)

まとめ

腸内細菌の中でも、酪酸菌は短鎖脂肪酸、特に「酪酸」という成分を産生することで、心身の健康にいい影響を与える可能性が、多くの研究で分かってきています。

この酪酸を酪酸菌が産生するためには、エサになる発酵性食物繊維を体にとりいれる必要があるので、毎日の食生活に積極的にとりいれていきたい栄養素ですね。

食事に気をつける以外にも、運動量が多いと腸内の酪酸菌の量が多い傾向があることも分かってきています。

さらには、酪酸菌が腸内に多く存在することは、健康に長生きするための秘訣ではないかと最新の研究で注目されていますので、自分の腸内の酪酸菌を増やす食生活を送っていきたいですね。

執筆ミツカン編集部

<執筆に利用した学術論文、総説・解説、書籍等の一覧>

1) Wu W, et al. Microbiota metabolite short chain fatty acid acetate promotes intestinal IgA response to microbiota which is mediated by GPR43. Mucosal Immunol. 2017; 10: 946-956.
2) Furusawa, Y, et al. Commensal microbe-derived butyrate induces the differentiation of colonic regulatory T cells. Nature 504, 446–450 (2013).
3) Djawad Radjabzadeh, et al. Gut microbiome-wide association study of depressive symptoms. Nature Communications volume 13, Article number: 7128 (2022)
4) Mahmud MR, et al. Impact of gut microbiome on skin health: gut-skin axis observed through the lenses of therapeutics and skin diseases. Gut Microbes. 2022 Jan-Dec;14(1)
5) Afzaal M, et al. (2022) Human gut microbiota in health and disease: Unveiling the relationship. Front. Microbiol.
6) Conlon, M. A, et al. Impact of Diet on the Gut Microbiome and Human Health., Journal of Gastroenterology and Hepatology., 2015. 
7) 腸内細菌と健康 - e-ヘルスネット - 厚生労働省
8) Furusawa, Y, et al. Commensal microbe-derived butyrate induces the differentiation of colonic regulatory T cells. Nature 504, 446–450 (2013).  
9) Tan JK, et al. Dietary fiber and SCFAs in the regulation of mucosal immunity. J Allergy Clin Immunol. 2023 Feb;151(2):361-370
10) den Besten, G, et al. The role of short-chain fatty acids in the interplay between diet, gut microbiota, and host energy metabolism. J. Lipid Res. 2013, 54, 2325–2340
11) J R Grider et al. The peristaltic reflex induced by short-chain fatty acids is mediated by sequential release of 5-HT and neuronal CGRP but not BDNF. Am J Physiol Gastrointest Liver Physiol. 2007 Jan;292(1):G429-37
12) Shin, Y, et al. Roles of Short-Chain Fatty Acids in Inflammatory Bowel Disease. Nutrients 2023, 15, 4466.
13) Mehrbod Estaki, et al. Exercise and associated dietary extremes impact on gut microbial diversity. Gut 2014;63:1913–1920.
14) Cataldi, S. et al. The Effects of Physical Activity on the Gut Microbiota and the Gut–Brain Axis in Preclinical and Human Models: A Narrative Review. Nutrients 2022, 14, 3293
15) Ghosh, T.S, et al. The gut microbiome as a modulator of healthy ageing. Nat Rev Gastroenterol Hepatol 19, 565–584 (2022).
16) Naito Y, et al. Gut microbiota differences in elderly subjects between rural city Kyotango and urban city Kyoto: an age-gender-matched study. J Clin Biochem Nutr. 2019 Sep;65(2):125-131. doi: 10.3164/jcbn.19-26. Epub 2019 Aug 9.

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