発酵性食物繊維と子どもの食物アレルギーとの関係性

発酵性食物繊維と子どもの食物アレルギーとの関係性

近年、食物アレルギーが増加1)しており、その原因の1つとして腸内細菌の関与が注目されています。

今回は食物アレルギーと腸内細菌の関係に注目し、腸内細菌と腸内細菌のエサとなる発酵性食物繊維がどのように食物アレルギーリスク低減に関係するのか紹介します。

  1. 食物アレルギーとは?
  2. 皮膚や粘膜のバリア機能は食物アレルギー発症リスクにつながる
  3. 腸内細菌叢と食物アレルギーの関係
  4. 食物アレルギー予防の鍵となるのは短鎖脂肪酸
  5. 発酵性食物繊維を摂取して食物アレルギー予防
  6. まとめ

食物アレルギーとは?

食物アレルギーは、免疫という私たちの体に備わっている体を守る仕組みが、本来攻撃するべきでない食物の成分に対して誤って反応してしまうことで、体に悪影響が出てしまう反応の一種です。

まず食物アレルギーの仕組みを簡単に説明します2)。

1. 体がアレルゲンに対して敏感になる(=感作とよびます)

特定の食べ物に含まれるアレルゲンと呼ばれるたんぱく質が体内に侵入すると、そのアレルゲンに対抗するために免疫機能が働き、「IgE抗体」という抗体ができます。例えば、鶏卵の場合、卵白のアレルゲンに対応するIgE抗体ができます。

このように特定のアレルゲンに対するIgE抗体が体内で作られ、次のアレルゲン侵入を待ち構えている状態を「感作」と呼びます。

2. アレルギー反応が起きる

感作が起こった後、再び同じ食べ物(アレルゲン)を摂ると、IgE抗体がアレルゲンと反応してアレルギー反応が起こり、食物アレルギーの症状が現れます。

3. アレルギー症状が現れる

食物アレルギーの症状は、じんましん、せき、目や口のかゆみ、くしゃみ、鼻水、吐き気、腹痛など様々です。

症状には軽度なものから重度なものまで個人差があり、重度の場合はアナフィラキシーショック*1と呼ばれる重篤な状態になることもあります。

皮膚や粘膜のバリア機能は食物アレルギー発症リスクにつながる

食物アレルギーが起きやすくなる条件として胃腸の消化機能や腸内のバリア機能などの機能が未発達であることとの関連性も考えられています。3)

また、アトピー性皮膚炎などがあると皮膚のバリア機能が弱まっていることから、皮膚からもアレルゲン入ってくる可能性もあります。4)

つまり、乳児はこれらの機能が未熟であるために成人よりもアレルゲンが体内に侵入しやすく食物アレルギーが発症しやすい可能性も考えられるのです。

乳児の約10%は食物アレルギーもちであるとも言われています。5)

腸内細菌叢と食物アレルギーの関係

腸内細菌叢*2は食物アレルギーの発症にも大きく影響しているのではないかと注目されています。

食物アレルギー持ちの子どもは、食物アレルギーを持っていない子どもと比べると大腸の腸内細菌の多様性が低く細菌の種類に違いが見られることが分かってきています6),7)。

ある双子のこんな研究例があります。

1人は健康で、もう1人は食物アレルギー持ちの双子の場合、健康な子どもは、食物アレルギー持ちの子と比べて腸内細菌叢の多様性が高く腸内細菌が作り出す成分も多いので食物アレルギーが発症しないのではないかと考えられています。8)

つまり、大腸の中で腸内細菌が“ある成分”をしっかり作ってくれている状態こそが食物アレルギー発症リスクを下げる手段になるかもしれないのです。

では、この“ある成分”とはどのようなものなのでしょうか。

食物アレルギー予防の鍵となるのは短鎖脂肪酸

ある成分とは“短鎖脂肪酸”と呼ばれています。

短鎖脂肪酸は、大腸で暮らす腸内細菌が作り出す成分であり、食物アレルギー発症リスクに影響しているのではないかと研究されているので紹介します。

動物実験において、短鎖脂肪酸が免疫機能を向上させ、食物アレルギーを抑制することが報告されており、人でも同じようなことが起きているのではないかと注目されています9)。

実際に、ヒトの子どもの便の中に含まれる短鎖脂肪酸量を調べてみると食物アレルギーの有症率と相関があったことから、大腸の中の短鎖脂肪酸が多いことは食物アレルギーの発症リスクが低いことに繋がっているのではないかとも考えられています。10)

一方で、牛乳アレルギーを持つ子どもの便の中には、短鎖脂肪酸の1つである酪酸の濃度が低いとの研究報告もあります。11)

では、この短鎖脂肪酸を大腸に生息する腸内細菌たちに作ってもらうために私たちはどのような栄養素をとるとよいのでしょうか。

発酵性食物繊維を摂取して食物アレルギー予防

大腸で暮らす腸内細菌に短鎖脂肪酸を作ってもらうには、発酵性食物繊維をとることが大切です。

発酵性食物繊維は腸内細菌のエサとなり、腸内細菌は発酵性食物繊維を分解し短鎖脂肪酸を作りだすのです。

動物実験において、発酵性食物繊維を含めたプレバイオティクス*3を事前に摂取したマウスでは食物アレルギーの発症が予防される12)ことや、妊娠中の母マウスが発酵性食物繊維を多く摂取すると、生まれてくる仔マウスの食物アレルギーの発症が抑制される13)など発酵性食物繊維摂取による食物アレルギーの予防効果がいくつか報告されています。

これらの研究結果から、妊娠期の発酵性食物繊維摂取量と生まれてくる子どもの食物アレルギーとの関係性に注目が集まっているのです。

まとめ

発酵性食物繊維は大腸で暮らす腸内細菌のエサとなり、腸内細菌による短鎖脂肪酸産生を介して食物アレルギーの予防に関係する可能性が知られています9)。

日本人の食事摂取基準 (2020年版)では、年齢(3歳以上)、性別に応じた食物繊維摂取の目標量が設定されているものの、現代の日本人は食物繊維摂取量が大きく不足していることも知られています。15)

食物繊維、特に腸内細菌のエサになる“発酵性食物繊維”の摂取を心がけることで健康な食生活を送りたいですね。

用語解説

1. アナフィラキシーショック:アレルギー反応により複数の臓器に症状が現れる状態を“アナフィラキシー”と呼び、血圧が低下し、意識障害のある状態がアナフィラキシーショックです。

2. 腸内細菌叢: 腸内に生息する細菌の集団のこと。腸内フローラとも呼ばれます。

3. プレバイオティクス:人の腸内において有益な影響を与える微生物の増殖や活動を促進する食物成分のことです。プレバイオティクスは、腸内環境を改善し、健康な腸内細菌叢をサポートする役割があります。代表的なプレバイオティクスには、イヌリン、フラクトオリゴ糖、ガラクトオリゴ糖、ペクチンなどがあります。

監修者三宅 邦夫(医科学博士)

山梨大学大学院総合研究部医学域疫学・環境医学講座・准教授
山梨大学大学院医学工学総合教育部修了(医科学博士)。山梨大学医学部環境遺伝医学講座の助教、社会医学講座の講師・准教授を経て現職。
エピジェネティクス、分子疫学を専門に、様々な病気における遺伝子と環境の影響を解明する研究に取り組んでいます。

執筆ミツカン編集部

<執筆に利用した学術論文、総説・解説、書籍等の一覧>

1. Loh W, Tang MLK. The Epidemiology of Food Allergy in the Global Context. Int J Environ Res Public Health. 2018;15:2043.

2. 東京都アレルギー情報 https://www.hokeniryo.metro.tokyo.lg.jp/allergy/knowledge/food_allergy.html

3. Yu W, et al. Food allergy: immune mechanisms, diagnosis and immunotherapy. Nat Rev Immunol. 2016 Dec;16(13):751-765. doi: 10.1038/nri.2016.111.

4. Sugita K, et al. Recent developments and advances in atopic dermatitis and food allergy. Allergol Int. 2020 Apr;69(2):204-214. doi: 10.1016/j.alit.2019.08.013.

5. 松原優里ら. 日本における食物アレルギー患者数の統計:疫学調査の現状と課題. アレルギー. 2018;67:767-773.

6. Zhao W, et al. The gut microbiome in food allergy. Ann Allergy Asthma Immunol. 2019;122(3):276-282.

7. Joseph CL,et al. Infant gut bacterial community composition and food-related manifestation of atopy in early childhood. Pediatr Allergy Immunol. 2022;33:e13704.

8. Bao R, et al. Fecal microbiome and metabolome differ in healthy and food-allergic twins. J Clin Invest. 2021;131(2):e141935.

9. Tan JK, et al. Dietary fiber and SCFAs in the regulation of mucosal immunity. J Allergy Clin Immunol. 2023;151(2):361-370.

10. Roduit C, et al. High levels of butyrate and propionate in early life are associated with protection against atopy. Allergy. 2019;74:799-809.

11. Berni Canani R, et al. Gut microbiota composition and butyrate production in children affected by non-IgE-mediated cow's milk allergy. Sci Rep. 2018;8:12500.

12. Takahashi H, et al. Combined oral intake of short and long fructans alters the gut microbiota in food allergy model mice and contributes to food allergy prevention. BMC Microbiol. 2023;23(1):266.

13. Selle A, et al. Prebiotic Supplementation During Gestation Induces a Tolerogenic Environment and a Protective Microbiota in Offspring Mitigating Food Allergy. Front Immunol. 2022;12:745535.

14. 食物繊維の必要性と健康- e-ヘルスネット - 厚生労働省

妊娠中の発酵性食物繊維摂取と子どもの神経発達の関係性 肥満と腸内細菌の関係について