コンテンツへスキップ

幸せホルモン「セロトニン」が腸で作られるメカニズム[発酵性食物繊維が鍵!]

幸せホルモン「セロトニン」が腸で作られるメカニズム[発酵性食物繊維が鍵!]

皆さんはつらい 気持ち、悲しい気持ちなど、気分が落ち込んだ経験はありますか?
このような気持ちは誰にでも経験のあることですが、時間が経ち気分転換することで前向きな気持ちに立ち直れるものです。

しかし、ずっと落ち込んだ気持ちが続くことは「うつ病」という病気かもしれません。1)
このうつ症状の原因の一つには私たちの大腸に生息している腸内細菌が関係しているということが最新の研究で分かってきているので紹介します。

  1. うつ症状の人と健康な人では腸内細菌の状態が異なる
  2. 短鎖脂肪酸は幸せホルモン「セロトニン」の産生に関係している
  3. 腸内細菌は発酵性食物繊維をエサにして短鎖脂肪酸をつくる
  4. 脳と腸はつながっているー“脳腸相関”
  5. まとめ

うつ症状の人と健康な人では腸内細菌の状態が異なる

最新の研究では、うつ症状の人の腸内に生息する腸内細菌は健康な人と比べてバランスが崩れているということが分かってきています。2)3)

ある研究によると、うつ症状の人はいくつかの種類の腸内細菌が増減し、特にフィーカリバクテリウムと呼ばれる菌が少ないということが分かってきています。2)

また、別の研究においてもうつ症状の人はいくつかの腸内細菌のバランスが崩れ、特にルミノコッカスと呼ばれる菌が症状に関係していると分かってきています。4)

これらの共通点は、フィーカリバクテリウムもルミノコッカスも短鎖脂肪酸を産生する腸内細菌として知られているということです。

大腸内で産生される短鎖脂肪酸は人の大腸内を始め、血流を介して全身を巡り健康によい作用を示すことが知られていることから、この短鎖脂肪酸を産生する腸内細菌が減少することが、うつ症状の発症に関係しているのではないかと注目されているのです。4)5)

では、腸内細菌の作る短鎖脂肪酸はどのようにうつ症状に影響しているのでしょうか。

短鎖脂肪酸は幸せホルモン「セロトニン」の産生に関係している

セロトニンという言葉を聞いたことはありますか?

幸せホルモンとも呼ばれ、脳内の神経伝達物質として働くことで精神を安定させ、やる気を起こすために必要不可欠な成分です。
つまり、 セロトニンが減少することで気分が落ち込み、うつ症状が発生してしまうと考えられています。1)

では、このセロトニンは体のどこで作られているのでしょうか。
脳で働くので脳内で作られていますが、実は腸内細菌の生息する大腸でもセロトニンは作られるといわれています。
大腸の上皮細胞にはセロトニンを合成する細胞が存在しており、腸内細菌が作った短鎖脂肪酸が細胞を刺激することでセロトニンが作られるといわれています。6)

あるマウスの研究では、セロトニン産生能力が低下しているマウスに短鎖脂肪酸を作る腸内細菌種を移植すると腸内のセロトニン産生能力が向上するという報告もあることから、セロトニン産生は腸内細菌の作る短鎖脂肪酸が大きく影響しているということが分かっているのです。6)7)

大腸で作られたセロトニンがどのように脳へ影響しているかは明らかにはなっていませんが、何らかのメカニズムで脳へ影響しているのではないかと研究の対象として注目されています。8)

腸内細菌は発酵性食物繊維をエサにして短鎖脂肪酸をつくる

大腸の中にいる腸内細菌は人が摂取した栄養素をエサとして食べてエネルギー源にしていることが知られています。

腸内細菌のエサとなるのは、人の胃や小腸で分解吸収されずに大腸に辿り着く食物繊維の中でも、エサになりやすい“発酵性食物繊維”。

腸内細菌は発酵性食物繊維をエサとして食べることで短鎖脂肪酸という成分を作り出すのです。

発酵性食物繊維は日常生活でも食事にとりいれやすい栄養素。
うつ症状のリスクを下げるためにも発酵性食物繊維を食事にとりいれていきたいですね。

※当サイト参照:発酵性食物繊維とは
※当サイト参照:善玉菌とは

脳と腸はつながっている ―“脳腸相関”

脳腸相関という言葉を知っていますか?

脳と腸内環境の情報が連動して健康に影響することをいいます。

例えば、ストレスを感じるとお腹が痛くなる経験をしたことはありませんか?
これは脳が感じたストレスがお腹に伝わった結果お腹が痛くなるという流れです。(脳→腸)

逆の流れも知られており、腸内細菌の作る短鎖脂肪酸量が減少することで腸内のセロトニン産生量が減り、その情報が脳に伝わることでうつ症状を引き起こしてしまうというものです。(腸→脳)

腸内細菌のケアをすることは、“お腹の調子”を整えることだけでなく、うつ症状のケアにもつながる可能性があるのです。9)

まとめ

誰もが経験する、気持ちが落ち込むこと、悲しい気持ちになること、これは自然に回復するものですが時には“うつ病”である場合もあります。
それは、大腸内の腸内細菌の状態が乱れていることによって起きているのかもしれません。

腸内細菌の中には発酵性食物繊維をエサとして短鎖脂肪酸を生み出すものが生息しており、この短鎖脂肪酸が大腸の中でセロトニン産生に関わっていると知られています。

発酵性食物繊維を日常生活にとりいれていくと、毎日前向きな気持ちで生活を送れるかもしれませんね。

監修者内藤 裕二

京都府立医科大学大学院医学研究科
生体免疫栄養学講座 教授

執筆ミツカン編集部

<執筆に利用した学術論文、総説・解説、書物等の一覧>

1)こころもメンテしよう- ストレスとこころ-こころの病気について知る-うつ病- 厚生労働省
2)Haiyin Jiang, et al. Altered fecal microbiota composition in patients with major depressive disorder. Brain Behav Immun. 2015 Aug:48:186-94.
3)Appleton J. The Gut-Brain Axis: Influence of Microbiota on Mood and Mental Health. Integr Med (Encinitas). 2018 Aug;17(4):28-32.
4)Djawad Radjabzadeh, et al. Gut microbiome-wide association study of depressive symptoms. Nature Communications volume 13, Article number: 7128 (2022)
5)Hidenori Shimizu et al. Regulation of host energy metabolism by gut microbiota-derived short-chain fatty acids, Glycative Stress Research 2019; 6 (3): 181-191
6)尾畑 佑樹: 腸内細菌による消化管神経回路の修飾 腸内細菌学雑誌 36 : 21-27,2022
7)Yano JM, et al. Indigenous bacteria from the gut microbiota regulate host serotonin biosynthesis. Cell. 2015; 161: 264–276
8)Toader, C et al. Mind, Mood and Microbiota—Gut–Brain Axis in Psychiatric Disorders. Int. J. Mol. Sci. 2024, 25, 3340.
9)Mayer EA, Tillisch K. The brain-gut axis in abdominal pain syndromes. Annu Rev Med. 2011;62:381-96.

健康的なダイエットの方法を食事・運動別に徹底解説! 腸内細菌が睡眠に与えるメカニズム[発酵性食物繊維が鍵!]