腸内細菌が睡眠に与えるメカニズム[発酵性食物繊維が鍵!]
皆さんは十分に睡眠をとれていますか?
質の良い睡眠は健康的な生活を送るために大切ですが、十分に睡眠をとれないと、日中の活動に支障が生じるだけではなく、高血圧や糖尿病などの生活習慣病の発症リスクを高めてしまうことが知られています。
そんな健康に必要不可欠な睡眠が、大腸内に生息している腸内細菌にも影響することが最新の研究で分かってきているので紹介します。1)2)
- 睡眠不足の人は腸内細菌のバランスが乱れている
- 腸内細菌は体内時計も調整する
- 腸内細菌が短鎖脂肪酸を作るためには
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腸内細菌のバランスを保つためにもよい睡眠を
- 起床後に朝日を浴びる
- 朝食を食べる
- カフェイン摂取は1日400mgまでにする
- 適度な運動をする
- 就寝前に入浴する
- 寝室では強い光はみない
- まとめ
睡眠不足の人は腸内細菌のバランスが乱れている
最新の研究によると、睡眠不足の人は腸内細菌のバランスが崩れているということが分かってきています。
通常、大腸内には多くの腸内細菌が適切なバランスを保って健康な状態を維持しています。
しかし、睡眠不足になると特定の腸内細菌が減少することで脳や腸の活動が乱れることに繋がるのではないかと研究報告されています。
では、その減少している腸内細菌はどのような細菌なのでしょうか。
それは、短鎖脂肪酸を作り出す特徴のある腸内細菌です。
この腸内細菌が短鎖脂肪酸を作り出してくれることが適切な腸内環境を整えることに繋がると分かってきていることから、良い睡眠は腸内環境を整えるためにも大切なことなのです。3)
※当サイト参照:短鎖脂肪酸とは
腸内細菌は体内時計も調整する
「体内時計」という言葉をご存じですか?
概日リズムとも呼ばれ、睡眠や体温、免疫、ホルモン分泌など体の機能の一部が約24時間周期に調整されていることをいいます。
朝になると目が覚め、夜になると眠くなるのは、概日リズムが関係しています。4)
先に述べた通り、睡眠を十分にとることは、健康的な生活を送るために大切ですが、この概日リズムも腸内細菌が関係していることが、分かってきています。
あるマウスの研究では、大腸に腸内細菌を持っているマウスは適切な概日リズムがあるが、持っていないマウスは概日リズムが弱くなることが報告されています。
つまり、体内時計が乱れるので、夜になっても眠くならずに夜更かししてしまうということに繋がる可能性があるのです。
では、どのような仕組みで腸内細菌は概日リズムを調整しているのでしょうか?
それは、腸内細菌が作る短鎖脂肪酸という成分が関係していると考えられています。
短鎖脂肪酸の一つである、酪酸という成分が十分に体内に存在していると規則的な体内時計が維持されると報告されているので、この酪酸が概日リズムに大きく関係しているのではないかと注目されています。2)5)
つまり、大腸内の腸内細菌バランスを維持し、短鎖脂肪酸を作り出すことは適切な体内時計を維持し、良い睡眠習慣を取り戻すきっかけになる可能性があるのです。
腸内細菌が短鎖脂肪酸を作るためには
大腸内に生息している腸内細菌は人が摂取した栄養素をエサとして食べてエネルギー源にしていることが知られています。
腸内細菌のエサとなるのは、人の胃や小腸で分解吸収されずに大腸にたどり着く食物繊維の中でも、腸内細菌のエサになりやすい“発酵性食物繊維”。
腸内細菌は発酵性食物繊維をエサとして食べることで短鎖脂肪酸という成分を生み出すことができます。
この短鎖脂肪酸が体内時計を調節し睡眠にも影響する可能性が知られているので、発酵性食物繊維は、積極的に食生活にとりいれていきたい栄養素です。
※当サイト参照:発酵性食物繊維とは
※当サイト参照:善玉菌とは
腸内細菌のバランスを保つためにもよい睡眠を
ここまで、よい睡眠が腸内細菌のバランスを整える可能性があることを紹介しました。
一般的に知られているよい睡眠を得るための方法があるのでご紹介します。6)
起床後に朝日を浴びる
朝日を浴びると、体内時計がリセットされ睡眠・覚醒リズムが整います。
また朝から日中にかけて光を多く浴びることで、夜にメラトニンというホルモンの分泌が促進されて寝つきが良くなると言われています。6)
朝食を食べる
朝食には体内時計をリセットする役割があると言われています。
1週間程度の朝食を抜くだけでも体内時計が崩れ睡眠不足に繋がる可能性があると言われています。6)
カフェイン摂取は1日400mgまでにする
カフェインは覚醒作用があるため、寝つきを悪くする可能性があります。
個人差はありますが、夕方以降のカフェイン摂取は避け、1日の摂取量は400mg(ドリップコーヒー4杯)を超えないようにしましょう。6)
適度な運動をする
適度な運動をして体力を消費することはスムーズな睡眠に繋がります。
運動することで高まった深部体温が下がることでも寝つきやすくなります。
就寝時間の2~4時間前までに運動することはスムーズな睡眠には大切です。 6)
就寝前に入浴する
40℃くらいの湯船にゆっくりつかると血行がよくなり、リラクゼーション効果が期待できます。
就寝1~2時間前に入浴すれば、入浴で高まった深部体温が下がり寝つきが良くなります。 6)
寝室では強い光はみない
夜に照明やスマートフォンの強い光を浴びると、入眠効果のあるメラトニンの分泌が抑制されることが報告されています。
就寝前に強い光は見ないようにしましょう。 6)
まとめ
睡眠は体力を回復し、健康的な毎日を送るためには必要不可欠なものですが、現代人は夜更かしや寝だめなど睡眠リズムが乱れがち。
睡眠の乱れは大腸内の腸内細菌バランスにも影響し、私たちの健康にも影響してくることが分かってきているのです。
腸内細菌は、短鎖脂肪酸という成分を作りだすことによって人の体内時計を調節し、良い睡眠習慣に繋がっている可能性も。
腸内細菌が短鎖脂肪酸を作るためにはエサになる発酵性食物繊維が必要なので日頃から食事にとりいれたい栄養素ですね。
京都府立医科大学大学院医学研究科
生体免疫栄養学講座 教授
<執筆に利用した学術論文、総説・解説、書物等の一覧>
1)睡眠と生活習慣病との深い関係 - e-ヘルスネット - 厚生労働省
2)入江潤一郎:睡眠と腸内細菌叢 腸内細菌学雑誌 31 : 143-150,2017
3)Yu Shimizu, et al. Shorter sleep time relates to lower human defensin 5 secretion and compositional disturbance of the intestinal microbiota accompanied by decreased short-chain fatty acid production. Gut Microbes, 15:1, 2023
4)概日リズム睡眠障害 - e-ヘルスネット - 厚生労働省
5)Leone V, et al. Effects of diurnal variation of gut microbes and high-fat feeding on host circadian clock function and metabolism. Cell Host Microbe. 2015; 17: 681–689.
6)健康づくりのための睡眠ガイド2023 - 厚生労働省