熱中症予防のカギは「食事」にあり!? おすすめの栄養素やレシピも紹介
日本の夏は、年々暑さが厳しくなる印象がありますよね。特に「熱中症」は、暑いなかでも職場への出勤や趣味のスポーツなどで屋外に出る機会が多い人はもちろんのこと、うっかりすると家のなかでもかかってしまう怖いもの。熱中症とは、かつて熱射病や日射病と呼ばれていましたが、2000(平成12)年以降に熱中症という呼称に統一されました。ここでは食事や飲みものを軸に、熱中症の予防に効果があるといわれているものをご紹介します。
熱中症対策は予防が第一!
2024(令和6)年5月から9月にかけて、熱中症で救急搬送された人の数は過去最多の9万7578 人だったそうです。これは2008(平成20)年に調査が始まってから最多人数で、年齢でみると65歳以上の高齢者がもっとも多く、次いで18歳から64歳の成人、そして7歳から17歳の少年、乳幼児の順となっています。
高齢者が全体の57.4%を占めるものの、成人は33.0%、少年も9.0%とそれぞれ一定数いることから、年齢を問わずすべての人たちが気をつけなければいけないのが熱中症の怖いところです。
暑さを避け、時には対策アイテムも
暑さが本格的になる前に汗をかくなど自分の体を暑さに慣らす「暑熱順化(しょねつじゅんか)」の大切さが近年いわれています。ただし、最近はGW前後から暑くなるなど年によって変動が大きいため、やはり暑さを避ける工夫がもっとも大事になります。
屋外で活動する場合は、あたりまえですが暑い時間帯を避けたり、屋外で過ごす時間を極力短くしたりしましょう。また、日陰を選んで歩いて太陽光を直接浴びないように心がけ、風通しの悪い場所での作業も避けたいところです。暑さ指数やそれをもとに発表される熱中症警戒アラートのチェックも欠かさないようにしてください。
服装も重要です。体温がこもりにくく、風通しがよい衣服を着るようにしたいですね。また、帽子や日傘は日の光をさえぎるため、体温が上がることをある程度抑えてくれます。
特に、屋外の作業や高温になりやすいビニールハウスでの作業などが多い農林水産業に従事する人は熱中症にかかる率が高いため、ファン付きウエアや冷却ベスト、ネッククーラー、ハンディファン、ポータブルファンなど対策アイテムの活用が推奨されています。農林水産業に携わっていなくても、それらを参考としてご自身に合うアイテムを取り入れてはいかがでしょうか。
こまめな水分補給と塩分補給を
熱中症は、体のなかの水分を失って体温を調節できなくなり、熱を体からうまく放出できなくなった状態のことです。酸素や栄養素、老廃物などが運べなくなると、人体にさまざまな影響を及ぼします。
暑さを感じると汗をかくのは体の熱を放出しようとする人体に備わった生理的な働きですが、汗をかきすぎると今度は体内の水分が不足します。暑いときは「こまめに水分を補給しよう」と言われるのはそのためです。
ところが、単に水分を摂ればいいというわけではないのが難しいところ。人間は体重の約60%が水分とよくいわれますが、実際には水分=体液です。汗をかくと水分とともにナトリウムも失われますので、塩分を補給しなくてはなりません。塩分を含む飲みものを摂り、塩分タブレットなども服用して水分と塩分を同時に補いようにするとよいそうです。
また、「経口補水液」を熱中症の予防にいいと勧める声もありますが、そもそも経口補水液は感染性胃腸炎による下痢や嘔吐で脱水症状を起こした病者向けの飲みものです。一般的なスポーツドリンクよりもナトリウムやカリウムが3~4倍多く含まれていることから、「ふだんの水分補給として飲むものではなく、医師や管理栄養士などの指導のもと使うように」と消費者庁は警告しています。ただし、経口補水液のなかには脱水を伴う熱中症に効果があるものも含まれているため、その製品をよく確認することが必要です。
バランスのよい食事を欠かさず摂る
暑いと食欲がわかないので、夏はなんとなく食事をおろそかにしがちです。しかし、実は熱中症の予防にとても重要なのが食事なのです。
ふだんあまり意識せずに食事をしていますが、例えば白米を水で炊くごはんは水分を多く含んでいますよね。茹でたり炒めたりして食べる野菜も水分を含んでいますし、味噌汁やスープも水分たっぷりです。つまり、食事をすることで得られる水分はかなりの量なのです。
特に暑い日の始まりに摂る朝食は重要です。あまり時間がなくても、ごはんと味噌汁とおかず、あるいはパンとおかずと野菜ジュースなどをしっかり食べたうえで、お茶や水もきちんと飲むようにしましょう。「時間がないから」と栄養補助スナックと少量の水分を摂るだけというのはNGです。熱中症予防でもっとも避けるべきなのは、食事を抜くことなのです。
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熱中症予防に効果的な食べものは?

食事の大切さはわかっていただけたと思います。では、熱中症予防のためにはどのような栄養素と食べものがよいのでしょうか?
ナトリウム、カリウムが豊富な食べもの
体内のさまざまなバランスを維持するために欠かせないのがミネラルです。そのなかでも体液の浸透圧を調節する役割を担っているのがナトリウムとカリウム。ナトリウムは細胞の内部と外側の水分量を調節していて、汗を大量にかくと汗に含まれるナトリウムが多く失われます。熱中症を防ぐのに食塩を摂るべきとされるのは、ナトリウムが食塩に含まれているからです。ナトリウムを多く含む食べものとして知られているのは、塩漬けされた梅干しです。そのほか、あさりの佃煮やイカの塩辛、辛子明太子などにも含まれています。
一方のカリウムは、細胞のなかの体液にそのほとんどが含まれていて、ナトリウムとバランスを取り合う関係にあります。野菜や果物、大豆、海藻、いも類などがナトリウムを多く含んでいます。野菜ではほうれん草や芽キャベツ、ニラ、果物ではアボカドやバナナ、メロン、キウイフルーツ、そして大豆を加工した納豆、海藻ではひじきや焼きのり、いも類では里芋、じゃがいもなどからカリウムを効率よく摂ることができます。
ビタミンCが豊富な食べもの
コラーゲンは体のなかの細胞と細胞をつなぐ役割を担っていますが、その生成に欠かせないのがビタミンCです。ビタミンCは強い抗酸化作用があるため、体内のさまざまな生理作用を促進するといわれ、夏の暑さによる疲労回復にも役立ちます。
ビタミンCを多く含むのは野菜と果物です。野菜ではパプリカや芽キャベツ、ブロッコリー、果物ではキウイフルーツや甘柿、いちご、オレンジなどがビタミンCの多い作物として知られています。
ビタミンB1&B2が豊富な食べもの
私たちは米を主食としていますが、そのエネルギー源である糖質の代謝に深くかかわっているのがビタミンB1です。また、ビタミンB2も糖質の代謝にかかわっていますが、特に脂質をエネルギーに変える際に大きな役割を果たしています。ビタミンB2が足りないと脂質をうまく利用できないといわれています。暑さによる疲れを緩和させるためにも、エネルギー代謝に欠かせないビタミンB1とビタミンB2は重要といえます。
ビタミンB1は豚肉の赤身(ヒレ肉、モモ肉、ロース)に多いことが知られているほか、うなぎのかば焼きにも豊富に含まれています。ビタミンB2は豚、牛、鶏のレバーに多く含まれていて、うなぎのかば焼き、納豆、うずらの卵にも豊富です。
クエン酸が豊富な食べもの
主に柑橘類の果実に含まれているクエン酸は、運動したときに筋肉のなかでつくられる疲労物質(乳酸)を分解する働きがあるといわれています。疲労を溜めないよう上手にクエン酸を摂るようにすれば、熱中症の予防にもつながることが期待されています。クエン酸は、レモンや梅干し、米酢などに多く含まれています。
【G】【H】【I】
熱中症になってしまったらどうする?
いくら注意していても、その日の暑さや体調によって熱中症になってしまう可能性は誰にでもあります。あなた自身だけでなく周囲の人も含めて、様子がおかしいなと思ったら次のような対処を心がけてください。
暑さから逃れる
一刻も早く日陰や空調の効いた場所など涼しいところへ移動しましょう。熱中症は対応が遅れると、例えば臓器のたんぱく質が変性して大きなダメージが残りますし、最悪の場合は死に至ることもあるため、応急処置が極めて重要です。
体を冷やす
水や冷えたタオル、氷、アイスパックなどでとにかく体を冷やしましょう。手足や首、わきの下、大腿の付け根などを冷やすと効果的です。スポーツの現場や屋外の作業などで熱中症になった場合、ホースで冷たい水をかけてもよいそうです。
水分と塩分を摂取する
冷たい飲みものを摂って水分補給を行ないます。スポーツドリンクなど塩分を含む飲料水や塩分タブレットなどで、塩分もしっかり補給します。
救急車を呼ぶ
もしも様子がおかしい人がいて、呼びかけても応答がない状態ならば、ためらわずに救急車を呼んでください。救急車を待つ間、涼しい場所へ移動し、体を冷やしますが、意識がないケースなら水は無理に飲ませない方がよいそうです。
呼びかけに応えられる状態ならば上の3つの応急処置を行ないます。安静にしていても症状がよくならなければすぐに医療機関へ向かってください。回復して大丈夫そうならしっかり休息をとってから帰宅します。
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熱中症にいい食べものQ&A

Q)熱中症予防によい朝食のおすすめは?
A)夏野菜や海藻類を具に用いた味噌汁を朝に飲むようにしましょう。ナスやキュウリ、トマトなど夏が旬の野菜にはいい作用があるといわれていますし、先ほどお伝えしたように海藻類はカリウムを豊富に含んでいるので味噌汁でしっかり栄養素を補給しましょう。
Q)熱中症に効く飲み物は?
A)熱中症を予防するには、液体に微細な氷の粒が混ざった流動性のある飲みもの「アイススラリー」がよいといわれています。アイススラリーは、2010年ごろから海外のスポーツの現場で用いられるようになりました。冷たい水よりも効果的に体の内側から冷やすことができるものです。一部のコンビニで扱っているのでかうこともできますが、自宅にミキサーがあればご自身でもつくれますよ。
【D】【K】【L】【M】
「?」と思ったら尿の色チェック
今年(2025年)の夏も厳しい暑さが続いていますね。6月の真夏日は東京都心で過去最多を更新したそうです。屋外だけでなく室内にいても熱中症になるケースもありますから、親や兄弟など周囲の人の様子も気にかけた方がよさそうです。
「熱中症かな?」と思ったら尿の色をチェックすることも重要です。尿の色が濃かったり、尿の量が少なかったりするのは危険信号。
水分をこまめに摂取するのはもちろんのこと、バランスのよい食事を1日3回きちんと摂るようにして、体力を落とさず暑い夏を乗りきりましょう。
【N】
執筆に利用した学術論文、総説・解説、書物等の一覧
【A】総務省「令和6年[5月~9月]の熱中症による救急搬送状況」
【B】環境省「熱中症環境保健マニュアル~総論~(2025年7月版)」
【C】農林水産省「農林水産業・食品産業の現場の新たな作業安全対策『熱中症対策アイテム集』」
【D】ミツカン水の文化センター機関誌『水の文化』74号特集「体の水チャージ」熱中症を理解して「水」の摂取で予防する
【E】ミツカン水の文化センター機関誌『水の文化』74号特集「体の水チャージ」海から陸へ上がり発達した体液調節機能
【F】消費者庁「経口補水液(けいこうほすいえき)について」
【G】五関正江監修『ビタミン・ミネラルがよくわかる本――上手にとって健康に!』(つちや書店 2023)
【H】医療法人社団 三聖会Web「健康情報(熱中症を予防しましょう!)」
【I】パルシステムWeb「パルシステムの健康・おうえんナビ(8月の家族の健康レシピ)」
【J】ミツカン水の文化センター機関誌『水の文化』74号特集「体の水チャージ」忘れがちだがそもそも私たちは「動物」だ
【K】環境省Web「熱中症予防情報サイト」講演資料「熱中症を予防する食事の摂り方」
【L】ミツカン水の文化センター機関誌『水の文化』74号特集「体の水チャージ」世界で最先端をゆく日本の暑さ対策研究
【M】佐賀県医師会 健康情報誌「はつらつ通信」vol.76「スポーツをする・観戦する際の熱中症対策」
【N】厚生労働省労働基準局安全衛生部安全課「あんぜんプロジェクト」平成27年度「見える」安全活動コンクール応募作品






